大阪高等裁判所 昭和34年(ネ)582号 判決 1960年3月03日
京都市中京区壬生松原町三六番地
控訴人
日本活版地金株式会社
右代表者取締役
中川吉之助
右訴訟代理人弁護士
岡部賴三
被控訴人
国
右代表者法務大臣
井野碩哉
右指定代理人大阪法務局訟務部検事
山田二郎
同
法務事務官 松谷実
同
大阪国税局大蔵事務官 中川利郎
右当事者間の頭書事件につき当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴人訴訟代理人は、「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人指定代理人は主文と同旨の判決を求めた。
当事者双方の事実上の陳述は、被控訴人代理人において、「被控訴人が差押えた訴外大阪鉛の控訴人に対する債権の弁済期は昭和三一年五月二二日である」と述べ、控訴人代理人において右事実を認めたほかは原判決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。
証拠として、被控訴人代理人は甲第一号証、第二号証の一、二を提出し原審での証人馬越舜三、武田弥兵衛の証言を援用し、乙第一号証の成立を認め、その他の乙号各証の成立は不知と述べ、控訴人代理人は、乙第一ないし第三号証第四号証の一、二を提出し、原審での証人植村新太郎、中川吉一の証言、当審での証人小原光太郎の証言及び控訴人代表者中川吉之助の本人訊問の結果を援用し、甲第一号証の成立を認め、同第二号証の一、二の成立は不知と述べた。
理由
訴外大阪鉛が控訴人に対し昭和三一年五月二一日頃輸入鉛二屯一一二、六瓩を金二九五、七六四円で売渡したこと、右代金の弁済期が同月二二日であつたこと、被控訴人(所轄生野税務署長)が後期滞納税金徴収のため国税徴収法二三条の一に基き同年一〇月一五日右債権を差押えたことはいずれも当事者間に争がなく、右差押通知が同月一六日に控訴人に到達したこと及び訴外大阪鉛が昭和三一年一〇月一五日現在昭和二七年度源泉所得税等合計金一六三、九八三円の国税を滞納していたことは控訴人の明らかに争わないところであるから民事訴訟法第一四〇条により右事実を自白したものと看做される。
控訴人は、控訴人の訴外大阪鉛に対する前記買掛金債務は昭和三一年五月二三日控訴人が訴外大嘉金属から譲受けた訴外大嘉金属の訴外大阪鉛に対する債権を以て相殺したことにより消滅したと主張するのに対し、被控訴人は右事実を不知と述べ、仮定的に、控訴人譲受けにかかる債権は本件差押当時にも未だ弁済期が到来していなかつたのであるから右相殺は無効であると主張するので考えるに、成立に争のない乙第一号証、原審での証人馬越舜三、武田弥兵衛、植村新太郎の各証言を綜合すると、昭和二七年一〇月九日、当時訴外大阪鉛は訴外大嘉金属他七名に対し合計六九五万余円の債務(このうち訴外大嘉金属に対する債務は一、〇〇七、八七九円)を負担し、そのままでは経営不能の状態にあつたので右債権者等と協議の結果、訴外大阪鉛は債務額の五〇パーセントを同年一〇月三一日と一一月二〇日二回に二五パーセント宛分割支払うこと、残余は同会社の経営状態が好転し弁済可能と認められるまで債権者等において弁済を猶予すること、弁済可能となつたか否かは債権者の一人である七宝メタル工業株式会社の代表者馬越舜三において訴外大阪鉛から提出される決算報告書に基き検討し、もし弁済可能と認めた場合は弁済額を決定し債権額に按分して弁済させることを協約したこと、その後債務額の五〇パーセントは協約どおり二回に分割支払われたこと、訴外大阪鉛の経営状態はその後も好転せず、却つて本件国税の支払もできない状態に悪化し、訴外馬越舜三において右協約の成立から控訴人が相殺をしたと主張する前記日時に至るまで前記協定に基く弁済可能の認定を一度もしたことがないことを認めることができる。控訴人代表者本人訊問の結果により真正に成立したと認められる乙第四号証の一、二を以てしては本件譲受債権の期限到来を証明するに足らず他に右認定を左右するに足る証拠はない。
控訴人は右弁済の猶予は訴外大阪鉛が毎月末決算書を作成して債権者に経理状態を明らかにすることが条件であつたのに、昭和二九年一〇月頃からこれを怠つたので、訴外大嘉金属から訴外大阪鉛に対しこれを追求したところ、両者間に昭和三〇年一二月下旬に別途解決案を建てて昭和三一年春早々に全額を弁済する旨の合意ができたと主張するけれども、右事実は、当裁判所の措信しない証人植村新太郎、中川吉一の右主張に一部副う証言のほかは、これを認めるに足る証拠がない。
以上の次第で控訴人主張の債権は前記相殺の日時には弁済期が到来していないから控訴人の相殺の抗弁はその余の点の判断をするまでもなく失当として排斥されるべきものである。
よつて、被控訴人は控訴人に対し右差押により大阪鉛に代位した本件差押債権中本件滞納税額金に相当する一六三、九八三円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日であること記録上明らかな昭和三三年五月一四日から右支払ずみまで商法所定年六分の割合による遅延損害金の支払を求める被控訴人の本訴請求は正当として認容すべく、これと同旨の原判決は相当であるから民事訴訟法第三八四条に則り本件控訴を棄却し、控訴費用の負担につき同法第八九条を適用し主文のように判決する。
(裁判長裁判官 石井栄一 裁判官 小西勝 裁判官 井野口勤)